Cécile McLorin Salvantの3枚
Cecile McLorin Salvant
Episode:何も考えてないとき
2013年のデビュー、2017年のライブ、2022年の実験。Cécile McLorin Salvantはアルバムごとに別の場所に立っている。ジャズヴォーカルの伝統の真ん中にいたはずの人が、気づいたら誰もいない場所で歌っている。でも声の芯は変わらない。変わったのは、その声で何を歌うかの選び方。
ライブ録音。ピアニストのAaron Diehlとのデュオに近い親密さで、1930年代のスタンダードを歌っている。の声はときにささやき、ときにドラマチックに張る。その振れ幅が一曲の中で自然に行き来する。古いジャズの歌唱法を完全に自分のものにしていて、「再現」ではなく「その曲がいま初めて歌われている」ように聴こえる。
デビューアルバム。Dreams and Daggersの4年前。ここでのはもっと端正で、ジャズヴォーカルの型の中にいる。スタンダードを歌う技術の高さが前面に出ている。Dreams and Daggersで聴こえた「崩し」がまだ少ない。その分、声そのものの質感がよくわかる。低音の太さ、高音の透明さ、ビブラートの使い方。4年後に自由になるための土台が、このアルバムに全部ある。
Dreams and Daggersからさらに5年後。このアルバムではスタンダードをほぼ歌わない。自作曲を中心に、ケイト・ブッシュやスティングのカバー、詩の朗読が混ざる。バンド編成もギター、チェロ、ハープシコードが入っていて、ジャズのフォーマットから外れている。WomanChildでスタンダードの型の中にいた人が、Dreams and Daggersでその型を自分のものにして、Ghost Songで型の外に出た。でも声を聴くと、3枚とも同じ人が歌っている。