Ahmad Jamalの59年
Ahmad Jamal
Episode:待てない人と、待てるピアノ
1958年、シカゴのクラブで録ったライブ盤。1970年、NYのスタジオで録った覚醒の一枚。2017年、フランスの街に捧げたラブレター。Ahmad Jamalのピアノは59年間ずっと「弾かない」ことで音楽を作ってきた。でもその「弾かない」の中身は、年を追うごとにまったく違うものになっていく。
シカゴのPershingホテルでのライブ録音。ガーシュウィンのスタンダードを、は信じられないほど少ない音で弾く。フレーズとフレーズの間に広い空間があって、その空間をベースのIsrael CrockerとドラムのVernell Fournierが支えている。Miles Davisはこのアルバムを聴いて自分のバンドのサウンドを変えたと言われている。3分33秒。短い。でもその短さの中にJamalの美学が全部ある。
12年後。レーベルがImpulse!に変わり、ベースはJamil Nasser、ドラムはFrank Gantに替わった。1958年のは「空間を残す」ピアニストだったが、1970年のJamalはその空間の中で何が起きているかを聴かせるピアニストになっている。音数は相変わらず少ない。でもひとつひとつの音の重みが違う。タイトル曲の冒頭、左手の低音が入ってくる瞬間の密度。「弾かない」のは同じなのに、12年分の経験がその沈黙を濃くしている。
さらに47年後。87歳の。フランスの港町マルセイユに捧げたアルバムの冒頭曲。パーカッションが前面に出て、Jamalのピアノはその上を漂う。1958年のライブの緊張感とも、1970年のスタジオの密度とも違う。穏やかで、でも手を抜いていない。87歳の手が鍵盤に置く音の一つ一つが、全部選ばれている。59年間「弾かない」を続けた人が最後にたどり着いた場所。